こどもが夢中になれるポイントは?アートやこどもにまつわる現場に潜入取材します。

2019.7.10

ウィズブック保育園代表・山本直美さんに聞く、子どもの意欲を育てる絵本と言葉かけの魔法

オリジナル絵本「WithBook(ウィズブック)」の読み聞かせから、さまざまな遊びへと子どもたちの想像を広げていく「ウィズブック保育園」。名古屋で6つの園を、関東で16つの保育園を展開しています。発達に合わせた絵本や遊びを楽しむことで、自立心や自己肯定感、言葉への理解など、子どもたちのさまざまな心の変化を実感しているという「ウィズブック保育園」代表の山本直美さん。「WithBookプログラム」生みの親でもある山本さんに、子どもの言葉と心を育む絵本や遊びについて、お話を伺いました。

― 「WithBook」は一般的な絵本とはどう違うのですか?

山本 一般的な絵本は、たとえば絵にしてもエネルギーが強くて、その世界観に子どもたちが引っ張られてしまうんです。それはそれでいいのですが、その後遊びにつなげていくためには、子どもたちが自分で想像したり考えたりする余韻を残したくて。デザイナーさんにその思いを伝え、絵本全体の雰囲気や世界観を大事にしてもらっています。
また、子どもたちの発達時期に合っているかどうかも大切。その時期の子どもたちの発語や行動を絵本のストーリーにしているのです。

― なるほど、実際に園で起こっていることが絵本にでてくるんですね!

山本 擬態語が好きな時期には『ぐるぐる』という絵本があったり、言葉を話しだす時期に『はい、どうぞ』という絵本を使ったり。私たちは月齢に合わせて1ヶ月に1冊、年間で計12冊の絵本を用意しています。1ヶ月間は毎日同じ絵本を読んで、日ごとにいろんな遊びに発展させています。

― 具体的にはどのような遊びにつながっていくんですか?

山本 遊びにつなげるためには、動機をつけてあげるような「言葉かけ」が必要です。たとえば『ぐるぐる』の場合、「絵本にはどんな“ぐるぐる”があった?」と問いかけてみたり、「みんなの好きな海苔巻きの具は?」というように子どもたちが自分で考えて答えられるような質問をしてみたり。まずは具体的なイメージを膨らませて、「やってみたい」という自発的な気持ちにもっていくことが大事なんです。実際はクラフトで海苔巻きをつくってみたり、ぐるぐる回るものを探す遊びをしたり、給食と連動することもあります。

― 言葉かけをしていくことで、手ごたえは感じますか?

山本 たとえば動物園の絵本を見たときに、「じゃあ動物園をつくってみようか」と突然言われても、小さな子どもにとってはイメージが沸きにくい。ほかにも動物のイラストや写真が載っているものを一緒に見たり、「何が好きかな?」「どんなおうちにしようか」など丁寧に言葉かけをしていくことで、だんだんとイメージが膨らんでいくのがわかります。

― イメージを膨らませる以外にも大事にしていることはありますか?

山本 動機づけの言葉かけ、ワークショップ遊びの後には、「意識づけ」の言葉かけも大事。意識づけでは、「上手」など評価に関わるような言葉をできるだけ使わず、事実をそのまま認めます。「力強く塗れたね」とか、「いろんな色を使ったね」とか。評価に関わるような言葉を使うと、小さな子どもは健気なので、「上手でないといけない」と感じ、大人が求めるようなものをつくろうとしてしまう。それにより、自分で考えることをだんだんとしなくなってしまうんです。

― 物事に取り組む意欲が変わってくるんですね。遊びのきっかけが絵本であることには、そのほかにどんな魅力がありますか?

山本 絵本は創造力を豊かにしてくれます。海に潜ったり、空を飛んでみたり、犬と一緒に車に乗ったり。絵本を通して、子どもたちは心の中でいろんな体験をしているんです。情緒的に豊かになることは、人への思いやりにもつながります。
また、「自分の意見を言えるような子にしたい」と願っている親御さんも多いと思いますが、そのためにはまず、ボキャブラリーが必要。“言葉で自分の意志を伝える”ということの大前提が、絵本で豊富なボキャブラリーに出合うことなんです。

― なるほど、絵本への概念を少し持っていると、家庭でも役立ちそうですね!

山本 どんな言葉を使うか、かな。言葉を整えると、自然と心が整います。私たちの保育現場でも、言葉かけを意識することで、子どもたちの変化を実感しています。たとえば、ごはんを食べるときの姿勢を良くしたいなと思ったときに、「背中をまっすぐにして食べなさい」って言うこと、ありますよね。子どもたちは人に指摘されるまで自分の姿勢が悪いなんて思っていないので、その言葉によって自分は姿勢が悪い人なんだと思ってしまう。私がよく使うのは、「昨日よりまっすぐになってるよ」。すると子どもたちは、背筋をまっすぐにしようとするんです。

― ポジティブな言葉を選ぶと良いんですね。

山本 着替えなんかも、「早く、早く」と急かすより、「昨日より早いんじゃない?」と言うと意外と効果的だったり。前職で動物を飼っている園に勤務していたことがあるんですが、カットしたキャベツを子どもたちにたらいに入れてもらう際に、みんな適当に入れるのでたらいの外に落ちちゃうんですね。「動物さんが砂のついたキャベツを食べたらかわいそうじゃない?」と言っても、全然聞いてくれない。けれど、「今日のキャベツは元気ですね!」と言ったら、みんなケラケラ笑って、たらいからはみ出さないように入れようとするんです。子どもたちはみんな、ユーモアが大好きなんですよね。

山本さんは、2019年4月に著書「3・4・5歳児の心に響く魔法の言葉かけ」(明治図書出版)を発売したばかり。保育現場で働く人はもちろん、家庭でも参考になりそうな言葉かけのヒントがたくさん詰まっています。

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